ドクターズコラム 現代の体外受精

現在当施設で取り組んでいる最新の体外受精

体外受精も当初は採卵した卵子と精子を培養液に浮遊させて、受精卵が出来たらその受精卵を子宮に戻すというものでした。しかしその受精率は低く、精子と卵子の質の良いカップルのみ成功しましたが、精子が極端に少ないとか卵子の透明帯が分厚くて精子を受け入れない卵子を持ったカップルには無効でした。そういったカップルを受精させるために透明帯を薬剤や針で薄くしたり、精子を一匹直に卵子に注入する顕微授精が行われるようになったのです。

当院では岐阜県で最終的な不妊患者さんを扱い得る施設となるべく、22年前の当初からそういった技術に取り組み県内初の顕微授精、凍結受精卵による妊娠、アシストハッチングの全卵への適用を成功させて新聞等に取り上げていただきました。顕微授精によって対象となる患者さんは飛躍的に増加し、精管内精子や精巣上体精子など、男性の体内から得た微量の精子で受精卵が作れるようになり、当院では岐阜県で最初の顕微授精による体外受精児を誕生させました。

しかし、きれいでない受精卵を子宮に戻しても若い女性の場合はよく着床するのですが、高齢の方や子宮内膜が薄い方、子宮内膜症により内膜の状態が悪化している方は、きれいな受精卵を移植してもその着床率はやはりあまり良いものではありませんでした。体外受精は従来受精卵を子宮に戻すタイミングと、自然の受精卵が子宮内にたどり着くタイミングにずれがありました。従来の体外受精はできた受精卵を2~4分割になった状態(受精後2日目)で子宮内に戻していました。しかし自然の状態では受精卵が子宮にたどり着くのは受精後1週間目で、そこに5日間のずれが生じていたのです。これは「体外の培養器で育て続けるより体内環境に早めに戻してやった方が受精卵にとって良いのでは?」と昔は考えられていたからです。また、2日目の受精卵を2日目にあるはずの卵管内に戻してやるといったことも行われましたが(GIFT)卵管に障害のある患者さんがほとんどで子宮外妊娠などの発生も懸念され、あまり多くの患者さんには適用出来るものではありませんでした。

 

胚盤胞移植

こで自然では受精卵が子宮に現れる桑実胚から胚盤胞の状態に体外で育て、それから子宮内に戻そうという考えが生まれました。そのため胚盤胞にまで育てるための培養液と培養法が研究され、現在とても高率に胚盤胞まで発育させることができる培養液が開発されました。私達は2000年度から凍結受精卵に対しこの方法を適用してきましたが、受精卵を戻せた患者さんの65%に妊娠反応が出て55%の方が妊娠を継続し、出産されました。その翌年からは採卵した周期に凍結することなく胚盤胞まで発育させ子宮内に戻していますが、やはり戻せた方の65%が妊娠反応が陽性になり55%の方が妊娠を継続し得ています。我々自身も驚くべき方法が出現してきたものだと感じているところです。おそらくこの方法で体外受精の受精卵を戻すタイミングに関しての論争は終結するものと考えられます。

通常の2~4細胞の移植では20歳代で50%、30歳代で35%、40歳代で10%の妊娠率であり、他の大きな施設と比較しても遜色のない確率で妊娠させていたのですが、平均成功率30%でも当方の印象は、「いつも失敗して患者さんに申し訳ない」という感じでした。しかし胚盤胞移植では、非常に高率に妊娠が成立している実感があり、かなりの満足感が得られました。特に凍結受精卵まで作成しておくことが出来る患者さんは採卵周期に55%妊娠し、凍結受精卵を使ってさらに55%が妊娠すれば一回の採卵でなんと75%の方が妊娠できるのです。

胚盤胞移植法の図解は こちら

 

胚盤胞移植は万能か?

一番の問題は胚盤胞まで育たない受精卵しか出来ないカップルも30%存在するという事と、そもそも顕微授精や凍結受精卵を作成する能力がなければ高率に胚盤胞を作成することが出来ないという事です。今後こういった問題をクリアするのが大きな研究課題となってきますが、現在私達はすでに受精卵を戻す子宮内膜の質を上げたり、放出される卵子の質を上げる方法に取り組んでおり、成果が出せれば皆さんに報告していきたいと考えています。