当院の不妊治療について
タイミング法
排卵日を予測し、そのタイミングで性交渉を行うことで妊娠の確率を高める方法です。
タイミング法の治療スケジュール
- 基本検査(ホルモン検査や超音波検査など)を行う
- 月経きたら医師と相談し治療計画を作成する
- 卵胞の発育状況を確認する
- 排卵日を予測する
- 排卵日に性行為を行う
- 排卵後に再度受診し、妊娠の有無を確認する
人工授精
子宮内人工授精
人工授精には、より多くの精子を卵子のもとへ近づけるという意味があります。
また、人工授精は妊娠するための治療法ですが、人工授精レベルで妊娠できるか否かのテストでもあります。
人工授精で妊娠できる方の80%は大体5回までに妊娠されます。(5回という回数はご主人の季節変動や、卵子の質の変化を考えると妥当な回数です。もちろん中には16回目の人工授精で妊娠された方もいらっしゃいますが、やはり受精能力がない精子や卵子の方や、卵管が妊娠に耐えない方は妊娠しにくいようです。)
その後の体外受精も含めた治療方針は、ご夫婦の希望に基づき相談の上、治療方法を選択してまいります。
人工授精の治療スケジュール
- 月経がきたら、医師と治療方針を相談し治療計画を作成する
- 超音波検査で卵胞の発育状態を確認し、必要に応じて排卵誘発剤を服用する
- 排卵日を予測する(超音波検査、尿中LH検査など)
- 排卵日の直前または当日に精子を子宮に注入する
- 超音波検査で排卵を確認する(必要に応じて黄体補充を実施)
- 妊娠判定
人工授精が適している障害
- 精子の数が少ない。奇形精子が多い
- 精子が運動しているのに、回転運動ばかりで直進運動が少なく、受精可能精子が少ない。
- 抗精子抗体が存在し、精子の運動が阻害される場合や、流産を繰り返す場合
- セックスがうまく出来ない場合。(機能的、時間的、物理的)
- 帝王切開などの傷や、筋腫やポリープ等の物理的な障害物で精子の上向性が阻害されている時
- 炎症や初期子宮癌などで頚管部に手術を受け、頚管粘液が減少或いは分泌不良になっている時
- 精液中に細菌が存在する場合。
(子宮や卵管に炎症を起こす可能性があるため、精液を洗浄して行われる人工授精ではそのリスクが軽減されます)
体外受精
当院では、体外受精に取り組み2025年で30年余りとなり、これまで多くの赤ちゃんが当院で誕生しています。
当院を信頼してくださった患者さまといつも助けてくれるスタッフに感謝しています。
当院では体外受精を進めるにあたり、患者さまと十分にご相談の上、治療計画を作成し治療に進みます。
「なるべく使用する薬を抑えた採卵をしたい」「多くの卵子を一度で採取したい」
「新鮮胚移植をしたい」、「顕微授精はなるべくしたくない」などいろいろなご希望があると思います。
すべてのご希望を叶えることは難しいところもありますが、できる限り患者さまの意向を尊重しつつ医学的観点をまじえ、治療計画を立て治療を進めていきましょう。
これまでの体外受精とこれから
体外受精も当初は採卵した卵子と精子を培養液に浮遊させて、受精卵が出来たらその受精卵を子宮に戻すというものでした。
しかし、その受精率は低く、精子と卵子の質の良いカップルのみ成功しましたが、精子が極端に少ないとか卵子の透明帯が分厚くて精子を受け入れない卵子を持ったカップルには無効でした。
そういったカップルにおいては、卵を受精させるために透明帯を薬剤や針で薄くしたり、精子を一匹直に卵子に注入する顕微授精が行われるようになったのです。
当院では岐阜県で最終的な不妊患者さんを扱い得る施設となるべく、当初からそういった技術に取り組み県内初の顕微授精、凍結受精卵による妊娠、アシストハッチングの全卵への適用を成功させて新聞等に取り上げていただきました。
顕微授精の登場によって、対象となる患者さんは飛躍的に増加し、精管内精子や精巣上体精子など、男性の体内から得た微量の精子で受精卵が作れるようになり、当院では岐阜県で最初の顕微授精による体外受精児を誕生させました。
しかし、きれいでない受精卵を子宮に戻しても若い女性の場合はよく着床するのですが、高齢の方や子宮内膜が薄い方、子宮内膜症により内膜の状態が悪化している方は、きれいな受精卵を移植してもその着床率はやはりあまり良いものではありませんでした。
体外受精は従来受精卵を子宮に戻すタイミングと、自然の受精卵が子宮内にたどり着くタイミングにずれがありました。従来の体外受精はできた受精卵を2~4分割になった状態(受精後2日目)で子宮内に戻していました。
しかし、自然の状態では受精卵が子宮にたどり着くのは受精後1週間目で、そこに5日間のずれが生じていたのです。これは「体外の培養器で育て続けるより体内環境に早めに戻してやった方が受精卵にとって良いのでは?」と昔は考えられていたからです。また、2日目の受精卵を2日目にあるはずの卵管内に戻してやるといったことも行われましたが(GIFT)卵管に障害のある患者さんがほとんどで子宮外妊娠などの発生も懸念され、あまり多くの患者さんには適用出来るものではありませんでした。
胚盤胞移植
そこで自然では受精卵が子宮に現れる桑実胚から胚盤胞の状態に体外で育て、それから子宮内に戻そうという考えが生まれました。そのため胚盤胞にまで育てるための培養液と培養法が研究され、現在とても高率に胚盤胞まで発育させることができる培養液が開発されました。
私達は2000年度から凍結受精卵に対しこの方法を適用してきましたが、受精卵を戻せた患者さんの65%に妊娠反応が出て55%の方が妊娠を継続し、出産されました。その翌年からは採卵した周期に凍結することなく胚盤胞まで発育させ子宮内に戻していますが、やはり戻せた方の65%が妊娠反応が陽性になり55%の方が妊娠を継続し得ています。
通常の2~4細胞の移植では20歳代で50%、30歳代で35%、40歳代で10%の妊娠率であり、他の大きな施設と比較しても遜色のない確率で妊娠させていたのですが、平均成功率30%でも当方の印象は、「いつも失敗して患者さんに申し訳ない」という感じでした。
しかし、胚盤胞移植では非常に高率に妊娠が成立している実感があり、かなりの満足感が得られました。特に凍結受精卵まで作成しておくことが出来る患者さんは採卵周期に55%妊娠し、凍結受精卵を使ってさらに55%が妊娠すれば一回の採卵でなんと75%の方が妊娠できるのです。
第1回目の体外受精の持つ特別な意味
体外受精といっても、20数年前の最初は卵子を採って精子と自然に培養し、受精したものを母親の子宮内に戻すだけのものでした。実際にやってみると受精しないご夫婦が多く、また受精しても質の悪い受精卵しか出来ない方が多く見受けられました。
当時、1回目はそういった通常の方法を行い、受精が不成立だった場合に、初めて顕微授精を一部行うといった順序での治療が一般的でした。そこには患者さんをなんとか早く妊娠させてあげようと言う配慮は感じられず、「患者さん不在の医療では?」と言う見方もありました。そのため当院では体外受精開始当初から、ご主人の精子が非常に良いのに受精卵が次の日に出来ていない方には、次の日に顕微受精を行うという方法をとって来ましたが、その方法での妊娠例が韓国で発表されてはいたものの、やはりほとんど妊娠しませんでした。
そこで更に、患者さんを妊娠させるためにはどうしたら良いのかを考えた結果、初回の患者さんには通常の方法と顕微授精を平行して行い、1回目の妊娠率を上げるという方法をとることにしました。
1回目の体外受精には、精子卵子に受精能力があるのかないのかを検査する意味もあり、最初から全て顕微授精を行うわけにもいかない側面もあるからです。受精能力が認められた場合、通常の治療でも妊娠しうることがあり、普通の治療に戻れる可能性があるということになります。しかし、できた受精卵はあきらかに顕微授精を行った方が、質の良い受精卵が出来る事もこの時の経験から解ってきました。
当院の顕微授精に対する考え方
体外受精1回目の通常の方法(コンベンションと呼んでいますが)の方でもきれいな受精卵ができた方には2回目以降は通常の方法のみを行い、妊娠しない方には3回目以降、顕微授精主体で行うという方針で行ってきました。
当院では、卵子にふれるスタッフは限られています。体外受精開始当初から体外受精業務をこれ以上増やせない状態にありますが、増やそうとも考えていません。
それは多くの人の手を介さない事によって、単純な取り違えミスが起こるのが防げるという事の他に、受精が成功したときの患者さんの喜びや、失敗したときの悲しみを直に感じて、それを原動力に仕事をしていこうと最初に決めやってきたからです。したがって、失敗によるプレッシャーも直に受けます。それにより必死に改良を加えて来ざるを得なかった訳ですが、だからこそ進歩して来られたのだとも言えます。
ですから、患者さんの苦しみを直に味わい、研究を重ねてきた私達の方法に間違いはなかったと手前味噌ですが思います。
体外受精を行う上で困難な事
下表のような技術的な進歩はあるものの、行うほどに工夫を凝らさないと出産までには結びつかないという事を思い知らされます。
つまり、一番気を配るのは自然な受精でないからこそ、自然以上に健康な赤ちゃんを世の中に送り出すという事です。
当院では子宮外妊娠を減少させる方法、採卵後の腹水を増加させない方法、多胎妊娠を減少させる方法、受精卵を戻す子宮内膜の正常化による着床率の向上、妊娠後の流産率を下げる方法、不育症に対する事前の予防(アスピリンや漢方だけでは不十分な場合も多い)、子宮内膜が薄い患者さんを妊娠させる方法(7mmまで妊娠されてます)、内膜症の重症度や排卵する卵胞数による排卵誘発法の選択基準など、今までの経験から色々な方法をあみだして来ました。
数々の細やかな注意を払わないと結局赤ちゃんを得ることにはなりません。
20代の卵管閉塞や精管閉塞の簡単な患者さんなら80%はすぐにでも妊娠できるでしょう。しかし、問題は卵子の質が良くない37歳以上の患者さんであり、卵子が1個ずつしか排卵されない患者さんや、精子が全く動かない精子無力症や極度の乏精子症の患者さんで、やはりかなりの注意を払って行わないと出産までたどりつくのは至難です。 今後もいろいろ研究し、尽力していきますのでご期待ください。
当院の不妊治療のあゆみ
1995年 | 顕微受精による乏精子症患者の妊娠 |
1996年 | 精管閉塞患者の妊娠・凍結受精卵による妊娠 |
1997年 | アシストハッチングの全例開始 |
1998年 | 精子無力症患者の妊娠 |
1999年 | 凍結胚盤胞移植による妊娠 |
2000年 | 胚盤胞による多胎妊娠減少 |
2001年 | 2段階移植 内膜正常化 |